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オリナスコラム【第16回】 判例「取締役の損害賠償責任について」の紹介 (H18.1月)

オリナスコラム 判例紹介

  現行商法266条の3(会社法429条)は取締役が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に対して生じた損害を賠償する旨を規定している。本来、取締役は会社とは委任契約関係があるが、第三者(会社債権者など)とは直接契約関係にない。

 商法(会社法)では、取締役の職務の重要性と第三者の保護のため特に規定をおいて損害賠償責任を認めている。実務上は中小規模の株式会社が倒産したような場合に、会社財産からの債権回収を期待できない債権者が取締役の個人財産から債権を回収するための手段として利用される場合が多いといわれている。

 今回紹介する判例は、名古屋高等裁判所金沢支部判決平成17年5月18日判例時報1898号130頁である。これは小規模の乳業会社が食中毒事件により解散したことによって解雇された従業員から代表取締役に対してなされた損害賠償請求が認められた事例である。その理由として法令遵守体制の構築を怠ったことが挙げられている。

  事例を簡単に紹介すると、乳業会社が製造した牛乳に異臭がするということで販売店から回収した。その回収した牛乳を製造部長が新しい牛乳の製造のために再利用し給食用に納入した小中学校において食中毒が発生した。当該会社は保健所より無期限の営業停止処分を受けた。この処分により営業を継続することを断念した代表取締役は会社を解散して従業員12名全員を解雇した。

 従業員は、食中毒事件は異臭がするとして回収した牛乳を違法な再生産の原料として再利用することについて、代表取締役には職務を行うに際して悪意または重過失があるとして、解雇されなければ定年まで勤務することにより得られたはずの賃金などの損害賠償請求を行ったものである。

  第1審(金沢地方裁判所平成15年10月6日判例時報1898号145頁)は、代表取締役の損害賠償責任を認めた。そして、この控訴審でも代表取締役の損害賠償責任を認め、判決は確定した。この事例の特徴として、取締役の対第三者責任の理由付けとして法令遵守の体制構築義務に違反したという点を挙げることができる。

 最近は会社の不祥事事件を防止するために会社内にいわゆる内部統制システムという体制を構築すべきとする議論が高まり、新しい会社法においても一定範囲の会社についてはこの体制の構築を義務づける規定が置かれることになった。

 本件のように会社内に内部統制システムを構築していないとそれ以外には特に違法な経営をしていなくても、第三者に対する損害賠償責任を負わなければならないことになれば経営者にとって少し厳しいかもしれない。

 けれども、逆に実効性のある体制を構築すれば不祥事の発生を未然に防止することが可能となり、会社としてもまた経営者としても経営に対するリスクを軽減することができることになるのではないだろうか。

  具体的な内部統制システムの内容については、法律で規定していないので各会社の実情に応じた実効性のあるものを構築すればよいことになっている。また、会社法では取締役が2人以上いる会社、取締役会設置会社では内部統制システムの構築の基本方針については取締役会の専決事項とされ、また大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)では構築が義務づけられる。

  本件のような中小零細規模の会社には法律上は構築が義務づけられていないが、今後裁判所が経営者の対第三者責任が問題となった場合に、経営者自身が直接損害を発生させる行為をしていなくても、内部統制システムを構築していないことが重大な過失に該当するとして責任を認めることも視野に入れた上で経営していくことも必要となるのではないかと考えられる。